挑戦をやめない、失敗を恐れない、人生をあきらめない

さて、オークランドで新しいTATSUMIのOPENを決意した私たちですが、そのためには、クライストチャーチの巽に置きっぱなしになっているすべての機材をオークランドへ運ばなくてはいけません。しかし、巽は立入禁止エリアにありましたので、中に入って機材を取り出すには、様々な手配が必要で、何度もクライストチャーチへ行くこともできませんので、私たちは2泊3日でクライストチャーチへ戻り、巽にあるすべての機材と、アパートに残してきたすべての家具を取り出すことにしたのです。
これは自分たちだけの力ではどうにもならず、本当にクライストチャーチの多くの友人に助けていただき、なんとかなりましたが、その荷物の量たるや、大型トラック3台分!
地震から半年たって訪れた巽は惨憺たる有様で、腐臭にまみれたネズミの巣窟と化していました。水漏れにより、絨毯や壁にもカビが生えていましたので、すべてを持ち出すことなど当然不可能で、オークランドに持って行っても使えそうなものだけを選別して取り出しました。

さて、改装工事ですが、計画していたのは、「バーカウンターの設置」「床の張替え」「照明の設置」が大きなものでした。それでも、3週間程度と見積もっていたのです。その間に、スタッフを募集したり、必要なものを買い揃えたり、メニューを作ったりしなくてはいけません。そして、私たちは、OPEN目標を9月26日と決め、準備を進めました。

ところが、工事はなかなか順調に進まず、電気関係なども、次々とトラブルが発生し、OPEN予定を10月10日に変更しました。しかしそれでも工事は終わらず、結局、OPENは10月18日となったのです。最初の予定よりも3週間も遅れたことにより、収入がないのに高い家賃は支払わなければいけないし、もちろん工事費用もどんどん追徴されますし、巽の機材の倉庫預かり料もどんどん高くなっていきました。
予想外の出費が相次ぎ、定期預金を解約したり、個人の貯金をお互い出し合ったり、もうさすがにこれ以上絞り出すお金はないというぎりぎりの瀬戸際で、なんとかお店のOPENにこぎつけることができたのです。

そして、お店のOPENにあたり、なによりも問題だったのはライセンスです。新しくお店をOPENするためには、様々なライセンスを取得しなければならず、絶対に開店までに間に合わせなくてはいけないため、エージェントに依頼したのですが、このエージェントの担当者が、途中で消えてしまったのです!
結局、お酒を販売する免許はOPEN当日の午後に取得することができ、なんとかなりましたが、外席のライセンスはそれから2か月後、外席でお酒を販売する免許はさらにそれから4か月後となりました。最初に予定していた万全の態勢になるのに、半年もかかったということです。

満を持してOPENを迎えることができたわけですが、お客さんはいっこうに来ません。もちろん、まったく来ないわけではないのですが、クライストチャーチのときの忙しさがまるで嘘のような静けさでした。過去の会計記録を見てみると、クライストチャーチの巽も最初の半年くらいは大分暇だったようですので、そのうちきっと忙しくなると信じ、日々お客様を待ち続けたのです。

OPENさえすればなんとかなると思っていた売上も、まったくなんともならず、お店のOPENですべての貯蓄を使い果たしていた私たちは、地震保険の支払いによって、何度も助けられました。そして、しばらくしてから、私たちは、オークランドとクライストチャーチは同じニュージーランドといえどもまったく違うということに気付いたのです。
クライストチャーチは小さな街ですので、宣伝などしなくても、すぐに巽の噂は広がり、多くのお客様が足を運んでくれました。それは、レストランが街の中心部に集まっていたからです。ところが、オークランドはとても広いので、レストランは、街の中心部だけではなく、各エリアごとにたくさん集まっています。そして、Newmarket以外のエリアの人は、「NewmarketにTATSUMIがある」ということを、ほとんどまったく知らないんだということに気付いたのです。
一番大切なのは口コミだと思っていましたが、オークランドでは、宣伝広告で多くの人に知ってもらうことがまずは大切だったんだということを思い知りました。
口コミが効果を発揮するのは、そのあとのことです。

そして、OPENして半年ほどたったある日、新聞にTATSUMIのレビューが載りました。その反響たるやすさまじく、それから一か月ほどは、予約で一杯になりました。雑誌や新聞に載せた広告の効果ははっきりと感じることはできませんでしたが、やはり「レビュー」というのは「口コミ」と同じような効果があるようでした。
クライストチャーチの時から、巽は常連のお客様がたくさんいらっしゃいましたが、オークランドでも、いらっしゃるお客様はほとんどが常連の方です。こうやってメディアに載ることにより、さらに多くのお客様にTATSUMIを知ってもらい、さらに口コミで広がり、さらに常連さんが増えるという相乗効果に大きく期待しました。

今、OPENして10か月を迎えようとしていますが、ゆっくりながらも、確実にお客様を掴んでいることを実感しています。日本人のお客様はそれほど多くはありませんが、それでも来てくださる日本人のお客様のほとんどはリピーターの方で、新たにいらっしゃる日本人の方も「お友達に勧められてきました。とてもよかったので私も友達におすすめします!」とおっしゃって下さいます。
クライストチャーチから出てきて、右も左も分からないオークランドで再スタートを切ったTATSUMIですが、本当に多くの方に支えられています。がむしゃらに走り続けてこられたのも、まわりの支えや、スタッフの協力、お客様の励ましがあってこそでした。毎日毎日、小さいことから大きなことまで、本当に忙しいですが、自分がやりたい仕事で忙しいことの幸せを実感しています。
これからも、与えられたチャンスや、支えてくれる人たちへの感謝の気持ちを忘れずに、日々精進を続ければ、きっといつかこの努力に対するご褒美があると信じて頑張っていきたいと思います。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。