2011年2月22日 クライストチャーチ大地震発生

最初の地震は2010年9月。マグニチュード7.1でした。体感震度は5くらいだったと思います。長年クライストチャーチに住んでいても、感じる地震は年に1度程度のことでしたので、この突然の大地震には、本当に驚きました。
朝の4時35分だったので自宅にいましたが、停電、水漏れが起こり、店が心配ですぐに見に行きました。幸い、店の被害はほとんどなく、電気さえ戻れば営業できる状態でした。
予約がたくさんはいっていたのですが、この日の予約はもちろん全部キャンセルとなり、それどころか、街の中心部は立入禁止区域となってしまいました。
この時は、お店を1週間閉めることになりました。

次の地震は12月です。縦揺れだったのですが、この時は、ワインが棚から相当落ちて、裏口から店の外にワインが流れ出ていて驚きました。たまたまボクシングデーの祭日だったので、一泊二日で旅行に行くことになっていたのですが、とりあえず店を片付けてからということで出発を遅らせました。
9月の地震の後、余震が来る来ると言われていましたが、この12月の余震で「もうこれで大丈夫だろう」と、なんとなく安心していました。

ところが、2011年2月22日12時51分。ランチタイムの真っ最中。いまだかつてない大きな揺れがクライストチャーチを襲いました。体感震度は7くらいだったと思います。とにかく長い揺れで、9月、12月の地震で弱っていた建物は、ひとたまりもなかったことでしょう。
店内にいたお客様は店の外へ逃げましたが、まわりのビルでは、ガラスが割れて地上に降ってきたり、倒壊した建物の粉塵で、街は大変な砂埃にまみれていました。
多くの人が手を取り合い、肩を抱き合い、ハグレーパークに向かって避難をしていました。その光景は、本当に映画のワンシーンのようで、まるで街は爆撃を受けたかのような大きな被害を被っていました。

巽のはいっているビルは、とても丈夫で、この大地震でも、被害はまったくありませんでした。日本では、建物は頑強で安全なので、地震が来たら机の下に隠れろと言いますが、このクライストチャーチの地震から、「建物は倒壊する」ということを目の当たりにし、机の下にもぐっている場合ではなく、いち早く外に逃げなければ命が危ないんだと言うことを思い知りました。建物が倒壊しないのは、地震国日本の歴史と技術があってこそだったのです。

過去2回の大きな地震の時にも、街の中心部はバリケードがはられ、立入禁止となりましたが、今回は、本当に早い段階で、警察と軍隊が来て、バリケードがはられました。そして、巽のあるエリアは、大切なものを取りにいく暇もなく、あっという間に立入禁止となってしまいました。まさかこのあと、ずっとお店に入れないことになるなどとは、この時、予測もしていませんでした。

自宅は、店からほんの5分ほどのところでしたので、私たちはハグレーパークへは避難せず、とりあえず自宅へ戻りました。家の中もぐちゃぐちゃになっていたので、まずは掃除と、飲料水の確保です。余震がずっと続いていましたが、自宅のアパートも被害はほとんどなかったので、あまり「避難」することは考えておらず、悠長に昼ごはんを作って食べていました。
実は、街の中心部にあった自宅は、私たちの知らない間に立入禁止区域に指定されており、同じ棟には、もう誰一人残っていなかったのです。そんなことも知らずに、点検に来た警察官に「すぐにここを出るように」と怒られてしまいました。やはり、地震慣れしている日本人は、地震に対しての「危機感」が少ないのかもしれません。

とりあえず、身の回りのものだけを車に積み、どこかのモーテルに泊まろうと思い出発したのですが、ガソリンがないことに気づきました。ところが、給油しようにも、どこのガソリンスタンドも閉まっています。クライストチャーチ郊外に向かって車を走らせると、たまに開いているところもありましたが、みな「緊急車両、関係車両専用」で、一般車は受け付けてくれません。ラジオの情報を頼りに、やっと給油できるガソリンスタンドを見つけましたが、長蛇の列。そのあと、泊まれる宿探しを始めたのですが、時既に遅しで、どこも満室。結局、空き部屋をみつけることはできませんでした。

それから数日は友人宅でお世話になり、毎日テレビでニュースを見ていました。そして、地震の被害の大きさがどんどん明らかになり、立入禁止区域の解除、営業の再開など、まったく目処がつかない状態であることを理解せざるを得ませんでした。
9月の地震のときは、1週間店を閉めるだけで済みましたが、今回は、1ヶ月?2ヶ月?それとも3ヶ月?まったく予測不可能な状態で、今後の身の振り方すら考えられる状態ではありませんでした。

そんな時「街の中心部の立入禁止エリアは、クリスマス頃まで解除されない」との報道がありました。
「10ヶ月も????」店も家も、建物自体は問題ないのに、10ヶ月も入れないなんて!
信じられない現実をつきつけられることになったのです。

第8回 「人生の岐路」